シリーズ・誰も知らないサブカルチャー空間を徘徊する。

「ないしょのおまじない辞典」

 在りし日、駄菓子屋に必ずあった「ガチャガチャ(俗称の一つだが、以降こう表記)」。「キン消し」「スライム」「ファミコンもどき」……。何度もやったことを覚えている。現在は100円未満の台はすっかり姿を消し、200円のものまで出ているが、やはりどんな少年の思い出にも深く関わるモノであるはずだ。
 また、少女の頃、多かれ少なかれ誰しもが関わったはずのコトが「おまじない」。「小指の爪をのばす」「サインペンで赤い星を書く」等の「爪」系、「消しゴムに好きな人の名前を書いて使いきる」「好きな人の机の裏に自分の名前を書く」等の「名前」系のおまじないが手軽で、流行っていたはずだ。
 中には、「西の空に○△◇という呪文を唱える」「ライバルの名前を紙に血で書いて、燃やす」などのかなり本格的なおまじないに手を出しそうになった人もいるかもしれない。

 さて、今回紹介するのは、200円ガチャガチャの景品「ないしょのおまじない辞典」。5×4cmほどの豆本である。女の子向けのガチャガチャ景品というのも珍しいが、それは先入観によるものだろうか。まあいい。
 実は、これは、いわゆるはずれ景品である。しかし、はずれの割に、あたり景品の「テディベアのシルバーネックレス」「シルバーリング」などのシルバー小物(たぶんメッキ製品)より出てくる確率が低かったりする。
 また、「ないしょのおまじない辞典」とともに、ビーズの入った小瓶が入っているので、すぐおまじないが始められるところが、いかにもガチャガチャの景品らしい。てなわけで、載っているおまじないも、ビーズ系が主流である。
 その代表的なものが、
「彼から返事の手紙をもらえる」だ。

彼の名前は、ひらがなで、何文字ですか?
「はやしよしき」なら6。「まつもとひでと」なら7。彼に手紙を書いたら、手紙といっしょに、彼の名前の数だけ緑のビーズを封筒に入れます。緑色は、人にやさしさを与える色。彼もきっとあなたの手紙に返事をくれるわ。
 中に入っている緑のビーズの数を数えてみると、全部で15個。これなら彼の名前が、「みのりかわのりお」でも、「いずみやだいごろう」でもOKなわけで、親切なセット内容にみえる。まあただの偶然だろうけれど。

 ビーズを使わないものもちゃんとある。

「彼と仲良くなるチャンスを呼ぶ」
何気なくゴムで髪を結んでいるあなた、髪の毛を結ぶカラーゴムには実は深〜い意味があったのだ!ゴムの色を変えることで、彼と仲よしになるチャンスを呼ぶことができるなんて知らなかったでしょ?
……知らなかった。
 ちなみに、書いてあるのは6色。
赤は
「思いがけないところで彼とバッタリ!」
青は
「彼と一緒に勉強をするチャンスが…。」
黄は
「片思いの彼と友達になれる。」
黒は
「彼と一日に何回もろうかで会える。」
ピンクは
「彼に話しかけてもらえる。」
そして白が
「彼に相談をもちかけられる。」
 これには柔道の田村亮子もビックリだろう。が、色と効果とに関連が見えないところが、いかにもあやしい豆本のおまじないである。

 中には、ちょっと疑問を持たずにいられないものもある。

「彼に思いがとどく」
あなたのお気に入りのヘアアクセサリー(バレッタやリボンなど)を用意しておいて、誰にも見つからないように、放課後、彼の机の中にそっと入れてね。次の日、朝早く教室に行って、誰にも見つからないうちにアクセサリーを取り出して、髪につけるの。これを一週間続けたらバッチリ思いはとどきます。途中で誰かに見つからないように気をつけて。
 一週間見つからないようにこんなまわりくどいことをやるなら、もっと他にすることがあるような気もしないでもない。それに、このおまじない、彼の机を間違えたらどういう結果になるか想像すると、なかなか悲しいものがあるような気がする。

「彼への想いを断ち切る」
たくさんのビーズを持って河原に行きます。川辺にかがんで、彼との楽しかった思い出や忘れてしまいたいことをひとつずつ心の中で思い浮かべながら、そのたびに一つずつ川面に落としていきます。そのうちなにも浮かばなくなったら残りのビーズも川に落として…。彼への想いはビーズとともに沈んでしまいましたよ。
 うーん。これはみんなでやったら自然破壊そのものである。それに、「心の中で思い浮かべ」たりしたら、かえって未練がつのってしまうような気もするが?

 他に、「恋のライバルを消す」なんてのもあるが、これは本当にやる人間が出てきそうなので具体的には書かないでおく。しかし、人を呪うおまじないはふつうタブーにするのに、あえて書くあたりがサブカルチャー「ガチャガチャ景品」の面目躍如である。

 この豆本の最後のおまじないは、「男の子のあこがれの的になれる」。
 ちなみに方法は、「シルバーアクセサリーを身につける」だそうで、この「ないしょのおまじない辞典」が、なんのガチャガチャのはずれ景品だったか思い出すと、やはり、このごろのガチャガチャは、はずれ景品といえどもあなどれないものである、とあらためて考えさせられるのであった。
ものである、とあらためて考えさせられるのであった。