慶大に関する5つの「飲み」のお話

1、構内「塾生会館」での「飲み」

 時々、大学構内で宴会をやっているサークルを見掛ける。屋外では、春は桜の下、夏は運動場のわきが多い。屋内で一番見掛けるのは、塾生会館内である。
 塾生会館内での飲酒はあんまりやっていいことではないらしい。が、確かに宴会をやっているサークルは存在する。(特に文連加盟団体に多い。)そんな宴会の中身は一体どんなものであろうか。こっそり物陰から観察したり、実際に参加した部員から「サークル名は出さないからさー」といって教えて貰った話をここに書こう。
きっかけはいくつかあるが、大きく分けて、2つ、「のみに行く金がないから」「先輩(OB)が、部室を見にきた際に、酒をもってきたから」である。確かにこの理由以外で飲むことは考えられないであろう。
 のむ酒はそのほとんどが洋酒、しかもウイスキーである。(水割りにしてうすめても十分のめるからではないか?)主流は白角などの安酒であるが、我々が見たこともないような超高級洋酒も少しずつ飲まれている。日本酒の人気もけっこう高い。用意される場合、日本酒は絶対に一升瓶である。
ワンカップや酒パックではほとんど登場しない。カクテル缶も存在する。が、たいていの場合、それはすでに空になっている。多分、買いだしする人間が供出金の余りで2、3本買って、こっそり隠匿しようとしてばれたのではないだろうか?
 話題はそのサークルの活動内容に密接に関係する。マニア度の高いサークルではそのような趣味の関係の話ばかり(女性関係の話もその筋にからめて話される)、マニア度の低いサークルでは女性関係、特に前回のコンパに居た女子部員に関する話ばかりである。(いい忘れたが、この手の宴会に女性が参加することはほとんどない。)
 安酒の水割り+ちゃんぽんは悪酔いするらしく、たいていの場合において、リバースする人間が1人いる。が、同じくたいてい1人のみであるらしい。塾生会館はトイレが各階にあるので、廊下で粗相をしたりすることはほとんどない。が、その分トイレは確実に酒臭くなる。また、廊下にも酒の匂いは充満する。
 とりあえず、どの団体もきちんと後始末をして帰る。当然である。

2、「塾生注目!」で始まる「飲み」

 慶応大には飲みに関して、どの団体にもだいたい共通した伝統が存在する。「塾生注目!」と「ヤングファイト」と「醤油」である。
 野球の慶早戦の攻守の合間に主としてかけられる「塾生注目!」が、その形をまねて、飲みの始まる前にかけられるのは、もはやお約束である。ついでに、他大学と提携しているところでも「塾生注目!」といわれると、全員「なんだ!」と答えるのはご愛嬌である。(ちなみに、飲みとは全く関係ないが、現在この 「塾生注目!」が最も上手く、最も相応しいのは、慶應義塾大学應援指導部の部長にして、般教案内「けあ」でも政治学でお馴染みであらせられる、法学部教授の池井優君ではないかと個人的には思うのである。) 慶応は、「義塾」であるから、「塾生」でよいが、では、他の大学はコンパ前にどんな声をかけているのであろうか?
 ほとんどの大学では、特に存在しないようであったが、早稲田の一部のサークルに「学生諸君!」という掛け声があることが判明した。また、これまた早稲田の別のサークルでは「がくせーい、ちゅうーもーく!」(音を延ばす部分を明らかにするため、ひらがなで表示)なる掛け声をかけていることもわかった。これについては徹底取材する予定である。続報を待て。
 ところで、以前この「塾生注目!」に続くものの一つ「自己紹介」に関して、某HDP誌が、「出身校が名門だと、喝采を浴びるけれど、そうでないと『しらねー』ってブーイングをくらうんだって」といった趣旨の会談を載せていた。が、これは明らかに虚偽の記事であると思われる。これは出版元K談社に抗議するとともに、もし万が一そのような事をしていた人は、以後慎むこと。

3、「ヤングファイト」なる「飲み」

「ヤングファイト」を知らない人のために簡単に説明しよう。「ヤングファイト」とは、慶大特有の、2人以上によるビールの早飲み比べである。
「ヤングファイト」の掛け声は、サークルによって異なるといってもよい。まず、「腕の角度」である。これは、大体が120度であるが、30度から120度まで、様々な角度が存在する。そして、その後の「位置について」「よーい」
にあたる言葉であるが、これもサークルによっていくつかの亜流が存在する。
 これを最初に始めたのはどこであるか?慶大出身のコラムニスト、泉 麻人氏のコラム「大宴会」によると、体育会アメフト部であるそうである。同コラムには「この伝統はほぼ廃れた」とあるが、なかなかどうして、今でも残っているではないか。

4、「醤油」の入った「飲み」

「醤油」であるが、個人的にこの伝統はあまり好きではない。
「醤油」とは、「醤油の入ったビール」の事である。呼び名はその色から、「黒ビール」「黒ラベル」「コーク」などとなっている。やはりこれも呼び名はサークルによって異なる。扱い方も様々で、概して「黒ビール」と呼んでいるサークルは、扱い方も地味である。が、「黒ラベル」、「コーク」と行くに従い、エグくなる。「黒ラベル」と呼んでいるサークルは「結局飲んでる黒ラベル」と歌って一気に飲ませることが多い。「コーク」と呼んでいるサークルは「I feel COKE」と歌っている間に全部飲ませ、ついでにさわやかな笑顔をさせることもある。
 はっきり言ってこの味は最低である。一気にででもなければ絶対飲み干すことなどできない。ついでにこの味は次の日にも残る事を記しておこう。
 ところで、ビールの中に混ぜる物は醤油に限らない。七味唐辛子、タバスコ等辛味もあるし、ポテトサラダ、パセリ、粉チーズ等の固形物も所により混ぜられる。(結局机の上にある物はなんでも入るということ)
 醤油ほどではないが、これらのものを混ぜたビールも当然まずい。せっかくの酒である。できることなら美味しく飲みたいものだ。

5、福沢「先生」の「飲み」

『福翁自傳』等の各文献をみると、「先生」も酒のみであったことが明らかになっている。
 飲み始めたのは5〜6才の頃から(とはいうものの自由に飲んでいたわけではないが)で、特に大阪で書生をしていたころはよく飲んでいたらしい。19の時、長崎で1年間学んでいた頃は禁酒していたそうだが、19で禁酒するということは、19才より前に、自由に酒を飲んでいたということである。25の時以来は江戸にて勉強していたが、
そのときの第一の楽しみは、(酒を)飲むことであったそうで、朝昼晩、酒があれば、口実があれば、のんでいたそうだ。
 これをたねにしてのみの口実をつくろうとする方もいようが、その後「先生」はこれでは寿命にさしつかえると、35才位には完全に禁酒し、その後は知人に禁酒をすすめているから、どうも「塾生」には分が悪い。他大生と飲み比べをやってもなかなか勝てないのは、そのせいかも知れない。

その後早稲田のかけ声は結局「塾生」が「学生」に変わっただけの「学生注目!」がほとんどであることが判明してしまった、ということと、「知らねー」というブーイングは学校の有名無名でなく自己紹介をしている相手によってあるなしが決まる、ということを補足しておく。
驍ネしが決まる、ということを補足しておく。